空手で学んだ3年間
Functional Wing Chunにつながる、一つの大きな転機。
「先生はいろいろな武道を経験されていますが、一番強い武道は何ですか?」
これまで何度も聞かれてきた質問です。
でも、私は「一番強い武道」があるとは思っていません。
それぞれの武道は、それぞれの目的に合わせて発展してきました。だから本当に大切なのは、「どの武道が強いか」ではなく、「どんな状況に対応できるようになるためのトレーニングなのか」ということです。
もちろん、最初からそんな考えを持っていたわけではありません。
この考えにたどり着くきっかけになったのが、私が最初に本格的に学んだフルコンタクト空手でした。
私が空手を選んだ理由
武道を始めた頃の私は、「体が強ければ強いほど有利になる」と信じていました。
だからこそ、厳しい稽古で体を鍛えられるフルコンタクト空手は、とても魅力的に映りました。実際、稽古を続けるうちに体はどんどん強くなり、組手でも自信がついていきました。
フルコンタクト空手は力強く、分かりやすい武道です。大きな筋肉を使って攻撃し、体を鍛えて打たれ強くなる。そうした戦い方は習得しやすく、ある程度の体格や力があれば、相手が上手でも自分の攻撃を返すことはできます。
当時の私は、「これが強くなるということなんだ」と素直に思っていました。
少しずつ感じ始めた違和感
しかし、私の目的は試合で勝つことではありませんでした。
本当に身につけたかったのは、道場の中だけではなく、どんな場所でも自分や大切な人を守れる力です。
そう考え始めると、少しずつ疑問が湧いてきました。
例えば、ハイキックは試合では有効でも、路上では大きなリスクがあります。ローキックも、自分よりはるかに大きな相手を止めるには決定打になりにくいと感じました。
そして何より気になったのは、顔面へのパンチに対する練習がほとんどなかったことです。
実際のトラブルでは、ごく普通に起こり得る攻撃なのに、そこに対する準備が十分ではないように思えました。
最初はうまく説明できませんでしたが、「本当にこれでいいのだろうか」という疑問が、稽古を続けるほど少しずつ大きくなっていったのです。
忘れられない出来事
そんな頃、私は空手の先輩に「空手は本当に護身術として使えるんですか」と聞いたことがあります。
先輩は迷わず「もちろんだ」と答えました。
その日の夜、一緒に飲みに行ったときのことです。
別の男性が先輩の彼女を少し見ました。
すると先輩は立ち上がり、その男性の鼻を思い切り殴ったのです。
先輩は「空手はちゃんと使えるだろう」と伝えたかったのでしょう。
でも、私の心には別の思いが残りました。
私が学びたかったのは、暴力を始める方法ではありません。
暴力にどう向き合い、どう切り抜けるかでした。
体験レッスンで受けた衝撃
その後、私は詠春拳の体験レッスンに参加しました。
今思えば、先生は私の「力には自信がある」という気持ちをすぐに見抜いていたのだと思います。
組手の相手は、まだ練習を始めて六か月ほどの生徒さんでした。
正直に言えば、私は負けるとは思っていませんでした。
ところが結果は、まったく予想とは違いました。
相手は私より力が強かったわけではありません。
技が特別に難しかったわけでもありません。
それでも私は、自分の戦い方がまったくできなかったのです。
前に出続けるプレッシャーとシンプルな連打によって、何年もかけて身につけてきた距離、タイミング、攻撃の組み立て、そのすべてを使う機会がありませんでした。
最初は何が起きたのか分かりませんでした。
でも、一つだけはっきり分かったことがあります。
相手は私を倒そうとしていたのではなく、私に何もさせなかった。
その違いは、私にとって衝撃でした。
私の考え方を変えたもの
悔しい気持ちで家に帰りました。
正直、もう道場には行きたくないとも思いました。
でも、不思議なくらいあの日のことが頭から離れませんでした。
考えれば考えるほど、「勝った負けた」よりも大切なことに気づき始めたのです。
詠春拳は、難しい技を使っていたわけではありません。
力で押し切っていたわけでもありません。
違っていたのは、戦い方そのものでした。
相手に自分の得意な戦いをさせない。
自分の技を見せる前に、相手の選択肢を減らしていく。
私は初めて、「違う問題を解決するための武道」があることを知りました。
それ以来、私が自分に問いかける内容も変わりました。
「どの武道が一番強いのか。」
ではなく、
「このトレーニングは、どんな問題を解決できる人を育てるのだろう。」
そう考えるようになったのです。
振り返って思うこと
今振り返ると、空手を学んだ時間は決して遠回りではありませんでした。
むしろ、あの経験があったからこそ、今のFunctional Wing Chunがあります。
空手は、努力することの大切さ、体を鍛えることの意味、そして力があることがどれほど大きな武器になるかを教えてくれました。
一方で、「力に頼る戦い方には限界もある」ということも教えてくれました。
誰もが大きく、強くなれるわけではありません。
だからこそ私は、年齢や体格に関係なく、多くの人が身につけられる護身術を追求したいと思うようになりました。
Functional Wing Chunは、「どの武道が一番強いか」という答えを探して生まれたものではありません。
普通の人が、不利な状況でも少しでも自分や大切な人を守れる可能性を高めるには、どんなトレーニングが必要なのか。
その問いを追い続けた結果として、今の形になったのです。
覚えておきたいポイント
- 人は、自分が繰り返し練習したことができるようになる。
- 競技と護身術では、求められる能力が違う。
- 力は大きな武器だが、それだけに頼れる人ばかりではない。
- 大切なのは「どの武道か」ではなく、「どんな能力が身につくか」。
- Functional Wing Chunは、普通の人が不利な状況でも身を守れる可能性を高めるために生まれた。