技が止められたとき――そこから「対応力」が始まる
武道や護身術の技を覚えること自体は、それほど難しいことではありません。先生が動きを見せ、それを繰り返し練習し、少しずつできるようになっていきます。
しかし、相手がこちらの想定どおりに動いてくれなかったら、どうなるでしょうか。
相手が強く抵抗するかもしれません。こちらの技を止めるかもしれません。動き方を変えたり、反撃してきたりすることもあります。ほんの少し前までうまくいっていた技が、突然同じようには通らなくなることがあります。
ここで、単に技をたくさん知っているだけでは十分ではない場合があります。状況が変わったときに、自分の動きも変えられる能力が必要になります。
ブルース・リーは、対応することを説明するために「水」のイメージを使ったことでよく知られています。一つの形に固まるのではなく、目の前の状況に合わせて変化する。とても分かりやすい考え方ですが、そこにはもう一つ実践的な問いがあります。
では、その対応力を実際にはどうやって身につけるのでしょうか。
Functional Wing Chunでは、その対応力を養う一つの方法として、まず技が成功するところから始め、そこに意図的に抵抗やカウンターを加え、それでも続ける方法を探す練習を行います。
その基本的な流れは、とてもシンプルです。
技が決まる → 止められる・反撃される → 対応する → もう一度決まる → 続ける → 終わらせる
ただし、対応すること自体がこの練習の目的ではありません。いろいろな技に変化できることを見せたり、どれだけ多くの答えを知っているかを示したりするために対応するわけではありません。
戦うことを避けられない状況であれば、全体としての目的はもっとシンプルです。
できるだけ早く戦いを終わらせること。
対応力は、そのために必要になる能力の一つです。最初に選んだルートを相手に止められても、そこで主導権を手放して最初からやり直すのではなく、状況に合わせて変化しながら目的に向かって進み続けます。
まず、進む方向を作る
例えば、パクサオとパンチから始めるとします。先生が動きを見せ、生徒が基本的な形を覚え、最初の反応に対してその技がうまく決まる。これによって、まず目的に向かうための一つの方向ができます。
対応するということは、相手が何をするか分からない状態で立ったまま待ち、起きたことに次々と反応することではありません。まずはこちらから動き始めます。そのあとで、相手の抵抗によって初めて「何に対応しなければならないのか」が具体的になります。
技は最初のルートを作ります。
そして、相手がそのルートを閉じようとしたところから、次の練習が始まります。
次に、相手が抵抗する
最初の技がうまくいったら、今度は相手に反応を変えてもらいます。パンチを止めるかもしれません。腕の位置を変えるかもしれません。カウンターを狙うかもしれません。あるいは、単純にこちらの前進を止める方法を見つけるかもしれません。
先ほどまでうまくいっていた技が、今度は同じようには通らなくなります。そこでよく起きるのが、もっと力を使って元の技を押し通そうとすることです。それで成功する場合もありますが、対応力を身につけるという意味では、あまり多くを学べません。
相手が抵抗すると、状況が変わります。そして、その抵抗によって接触が生まれます。その接触が、私たちに情報を与えてくれます。
どこで前進が止まっているのか。どの方向から抵抗が来ているのか。相手が一つの道を閉じようとしたことで、別のところに新しい道ができていないか。接触を通して、そうした変化を感じ取ることができます。最初の技を無理に続けるのではなく、その情報を使って自分の動きを変えていきます。
抵抗に合わせて対応する
必要な変化は、大きいとは限りません。手の方向を少し変えるだけかもしれません。自分の位置を変える必要があるかもしれません。反対の手が使えるようになることもあります。あるいは、相手がこちらを止めようとしたことで、別のルートが開くこともあります。
大切なのは、相手のあらゆるカウンターに対して決められた答えを一つずつ暗記することではありません。抵抗によって何が変わったのかを理解し、それによって自分の前進がどのように止められているのかを見極め、目的を失わずに別の方法へ変えていくことです。
目的は変わらない。抵抗が変わる。だから、進むルートを変える。
対応すること自体が目的ではありません。最初に選んだ道が使えなくなったときでも、目的に向かって進み続けるための手段です。
うまくいったら、そのまま続ける
だからこそ、次の 「続ける」 という部分が重要になります。対応した結果、もう一度こちらの動きが通ったとしても、それだけで練習を終えてしまうわけではありません。実際の状況では、技が一つ成功したからといって戦いが終わっているとは限らないからです。
これはFunctional Wing Chunで繰り返し使っている考え方、「見極める。崩す。前進する。」 ともつながっています。こちらの前進を止めているものを見極め、それを崩し、そしてそのまま目的に向かって進み続けます。
相手がもう一度変われば、こちらももう一度変わります。こちらが動き、相手が抵抗し、その接触から情報を得て、対応し、そして再び前に進む。わずかな時間の中で、進むルートは何度も変わるかもしれません。しかし、目的そのものは変わりません。
最後は、終わらせる
「流れる」「対応する」「動き続ける」といった言葉を強調しすぎると、ずっと動き続けること自体が目的のように聞こえてしまうことがあります。しかし、そうではありません。戦わなければならない状況であれば、できるだけ早く終わらせたいのです。
つまり、本当の考え方は単に 「対応して続ける」 ではありません。「終わらせるために、対応して続ける」 ということです。
対応力が高くなれば、相手に止められにくくなります。そして、止められにくいことには大きな意味があります。一度止まって完全にやり直すたびに、相手には立て直す時間や、もう一度攻撃する機会が生まれるからです。
だから、対応する目的は非常に実践的です。
相手に止められにくくなり、できるだけ早く戦いを終わらせる。
接触した後の対応力
武道における「対応力」には、いろいろな形があります。接触する前に戦略を変えることもできます。距離やタイミング、位置を変えることもできます。別の攻撃を選ぶこともできますし、そもそも戦わないという判断をすることもできます。どれも重要な対応力です。
Functional Wing Chunでは、それに加えて 接触が生まれた後の対応力 を重視しています。こちらが動き、相手が抵抗する。その抵抗によって接触が生まれます。そして、その接触が情報を与えてくれます。
その情報を使いながら、自分の動きを変え、できるだけ主導権を手放さず、目的に向かって前進し続けます。これが、詠春拳でチーサオのような接触練習が重要になる理由の一つです。
接触していること自体が目的なのではありません。接触することで、変化を感じることができます。今までのルートが通らなくなったことを知ることができ、そこから次のルートを探すための情報を得ることができます。
目的は変えない。ルートを変える。
ここで「水のように」というイメージが、とても分かりやすくなります。水は障害物にぶつかったとき、最初に進んでいた方向にそのまま無理やり通ろうとはしません。目の前の状況に合わせて形を変え、別の道を進んでいきます。
しかし、それは方向を失うという意味ではありません。
Functional Wing Chunでも同じように考えます。
目的は変えない。ルートを変える。
目的に向かって動き始める。抵抗に出会う。接触から情報を得る。その情報を使って対応する。前進を続ける。そして、可能であればできるだけ早く終わらせる。
技が決まる → 止められる・反撃される → 対応する → もう一度決まる → 続ける → 終わらせる
技を覚えるところが、練習の始まりです。
相手がその技を止めようとしたとき、それでも前に進み続ける方法を学ぶところから、本当の対応力が始まります。